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千葉家庭裁判所 平成6年(少)2338号 決定 1994年10月21日

少年 C・K(1977.10.17生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、帰宅途中のA子(当時50歳)を認めて、劣情を催し、同女を強いて姦淫しようと思い、同女の後を追って、平成6年9月9日午前3時30分ころ、千葉県市川市○○×丁目×番×号所在の○○×××号室の同女方居室前まで行き、同女が少年の接近に気付き同居室のドアを閉めようとするや、足をドアに挟んで無理に同居室内に押し入り、同居室内において、激しく抵抗する同女を押し倒し、その肩や首を両手で押さえつけるなどの暴行を加え、その反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫したものである。

(法令の適用)

刑法177条前段

(処遇の理由)

本件は、ペルー共和国の国籍を持ち、日本に入国して約1年4箇月になる少年が、安定した就労生活を送ることができなかったことや交際する女性友達がいないことなどから性的欲求不満の状態に陥り、その欲求のはけ口として、強姦に至ったというものである。少年は、本件非行の直前においても、通りかかった中年女性を襲ってわいせつ行為に及んだ上、さらに、本件非行を敢行したものであること、前記のとおり、被害者の居室に無理に押し入り、被害者を押し倒した上、少年の身体に多数の引っ掻き傷を残すほど激しく抵抗する被害者に対して強度の暴行を加え、その反抗を抑圧して姦淫したものであること、被害者には何らの落ち度がなく、被害者の受けた精神的衝撃は大きく、その被害感情は現在においても極めて悪く、少年を宥恕する気持ちには至っていないことなどの諸事情に照らすと、少年の犯した本件非行は、まことに許し難い行為であって、これを軽視することは到底許されない。にもかかわらず、少年の内省は深まっておらず、被害者の心情に対する配慮や本件非行に対する罪悪感は乏しいと言わざるを得ない。

少年は、その性格等として、「活動性は高く、気分の赴くままに気軽に行動する方で、深く考えたり先行きを見通したりすることは苦手である。あきっぽく、地道な努力を持続したり、目標を持って行動したりすることは不得手である一方、物事の見方は単純で比較的楽観的である。」「行動は自分の欲求本位なものになりがちで、周囲の人の気持ちや立場を考えて行動するといった配慮まではなかなかできない。」などとされており、このような少年の性格・行動傾向がその生活態度や本件非行に対する罪悪感の乏しさ、さらには本件非行の背景にも繋がっているものと考えられ、その改善を図る必要性があるものと判断される。

少年の保護者である両親は、3年前に来日し、肩書住居地の会社の寮に住み込みで稼働しているものであるが、本年10月下旬限りで会社を解雇されるなどの理由から、本年11月中旬ころまでには母国に帰国することになっていることなどの事情に徴すると、少年の日本国内における社会内での処遇は極めて困難な状況にある。

以上のような諸事情を総合して検討すると、少年が本件非行をそれなりに反省し後悔していること、少年には非行歴等が見当たらないこと、少年の保護者である両親は、少年に対する愛情が深く、少年を一緒に連れて母国に帰国したい旨述べ、少年もこれに同意していることなどを十分に考慮しても、この際、少年に対しては、自分の犯した本件非行を振り返らせて、被害者の心情を理解させるとともに、自分の欲求を適切に統制していく力を養わせるなど、少年の本件非行にかかわる問題性を改善させて、少年の健全な育成を図るため、収容処遇により矯正教育を実施することが必要であると判断する。

なお、少年については、少年の保護者である両親が近々母国に帰国する予定であること、少年院出院時に少年は強制退去の対象となる確実性が高いこと、本件収容決定の主旨が、少年の本件非行についての内省を一層深め、もって再非行に陥らないようにすることにあることなどを考慮すると、少年院における少年に対する処遇は、比較的短期間の矯正教育をもって足りるものと判断するので、別紙処遇勧告書に記載のとおり処遇勧告をした次第である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木秀夫)

〔参考〕 処遇勧告書<省略>

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